日米租税条約の適用を受ける


I.            租税条約の恩典を受けるには?




前の記事のおさらいになりますが、アメリカの企業が日本の法人・個人に対して支払う配当・利子・ロイヤリティ・年金等は基本的に、アメリカの国内法によって30%の源泉徴収の対象となります。

但し、日米租税条約が適用されるのであれば、それぞれ配当・利子・ロイヤリティ・年金等に減税・免税措置がとられています。

租税条約が適用されるのは、租税条約の氾濫防止を目的としているため、ある一定の要件を満たした『適格者』と定められています。

適格者については、また別の記事で取り上げます。





A.           適格者であることの通知

  • 基本
アメリカの企業から配当・利子・ロイヤリティ・年金等の支払をもらう場合で、租税条約の適用が受けられる場合、受け取る側が日米租税条約の恩典を受けられる『適格者』であることを証明する必要があります。

  • 提出する書類
個人の場合:Form W-8BEN

法人の場合:Form W-8BEN-E

  • 提出するタイミング
配当・利子・ロイヤリティ・年金等が支払われる前に支払者へ提出します。複数の支払者がいる場合、各支払者へ提出する必要があります。
  • 有効期限
Form W-8BEN, Form W-8BEN-Eは、基本的に、フォームに署名した 日付から3年目の1231日まで有効とされています。

例えば、2018101日に署名されたフォームW-8BENは、2021 1231日まで有効です。

ただし、状況の変化によりフォームに記載したいずれかの情報が不正確となった場合(更新・変更があった場合)、変化があった日から30日以内に通知する必要があります。なお、一定の要件を満たす場合、フォームW-8BEN-Eは状況の変化がない限り無期限で有効となります。
  • 提出しなかった場合
万が一Form W-8BEN (Form W-8BEN-E)を期限内に提出しなかった場合、アメリカの国内法によって30%源泉徴収される可能性が考えられます。その場合、支払者(源泉徴収者)からForm 1042-Sが送られてくるはずです。

日米租税条約の適用があれば減税・免税となっていた場合、還付請求をすることができます。但し、アメリカで申告書を提出することが必要となります。Form 1042-Sの内容をもとに下記の申告書を作成します。

-       個人の場合:Form 1040-NR(非居住者用の個人所得税申告書)及び租税条約の適用Form 8833

-       法人の場合:Form 1120-F(外国法人用の法人税申告書)及び租税条約の適用Form 8833

  • Form 1042-Sとは?
Form 1042-Sとは、暦年ごとに外国法人・非居住者に対してアメリカから支払われたアメリカの源泉所得の対象となる支払・所得についてまとめた様式です。

Form 1042-Sは、Copy AIRSへ、Copy B, C, Dは受領者へ提出されます。毎年3月中旬までが提出期限となっています。


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  • Form 8802とは?
Form 8802とは、アメリカの居住者である証明書 (Form 6166)を発行してもらう申請書です。個人・法人ともにこのフォームでアメリカ
の居住者証明書を発行してもらえます。Form 6166の居住者証明書が手元に届いたら源泉徴収者へ提出します。

Form 8802の手続きに$85(個人以外の場合$185)の費用がかかってくるので注意が必要です。
Form 8802についての手順:https://www.irs.gov/instructions/i8802

B.           租税条約の恩典を受けていることの報告義務

  • 基本
基本的に、外国法人・非居住者はアメリカを源泉とする所得がない限りアメリカで納税をする義務がありません。

外国法人・非居住者がアメリカを源泉とする所得があったとしても、配当・利子・ロイヤリティ・年金等の源泉所得税の対象となる所得だけの場合で、適正に源泉税を支払えば(源泉徴収されれば)別途アメリカで申告する必要はありません。これは、W-8BENなどの提出によって、租税条約の恩典を受けていても同様です。

  • 報告義務がある場合
ただし、ある一定の要件を満たすケースの場合、租税条約によって軽減・免税の恩典を受けた外国法人・非居住者は、租税条約の恩典を受けていることをアメリカのIRSに報告する必要があります。

一定の要件のうち、よく日本の企業にみられるケース:

-       米国での活動から派生する所得(ECI Effectively Connected Income)があり、アメリカの法人税の申告義務がありながら、日米租税条約の事業所得・恒久的施設 (PE permanent establishment) によってアメリカにPEを有していないとみなされ、申告義務が免除されている場合

-       日本の企業が、株式保有率が50%超のアメリカ子会社から配当・利子・ロイヤリティ・年金等の源泉対象所得を受け取り、かつ、その所得の合計が課税年度に$500,000を超える場合

-       日本の企業が、株式保有率が10%超のアメリカ子会社から配当を受け取った場合

-       日本の企業が、アメリカより利息収入を受け取り、日米租税条約の適用により、源泉徴収が免除された場合

-       日本の企業が、株式保有率が25%超のアメリカ子会社より配当・利子・ロイヤリティ・年金等を受け取り、なおかつ、その所得がForm 1042S において報告されていない場合

-       日米租税条約第10 条(配当所得)の第9 項を用い支店利益税(Branch Profit Tax)の適用免除を受ける場合

  • 提出する書類
 上に書いた要件に該当する外国法人は、Form 8833Form 1120Fに添付してIRSに提出する必要があります。また、非居住者(個人)の場合、Form 1040NRまたはForm 1040NR-EZに添付して提出します。

ただし、アメリカで支店などで事業を行っていない場合、1120Fで申告義務がないので、基本的には1120Fに以下の内容を記載してForm 8833を添付して提出します。

   法人名

   住所

   納税者識別番号 (US taxpayer identifying number TIN)

  • 提出期限
Form 8833は所得税や法人税の申告書に添付する様式なので、所得税や法人税の提出期限に準じます。

原則、所得税・法人税の申告期限は4月15日ですが、延長申請すれば6か月の延長が最大で認められています。

ただし、上記のケースのように、アメリカで1120Fの申告義務がないのに、Form 8833を添付してForm 1120Fを提出する場合、事業年度終了後6か月目の15日(暦年であれば615日)となります。こちらも申請をすれば、最大6か月の延長が認められています。

Form 8833を提出しなかった場合、個人の場合$1,000、法人の場合$10,000の罰金が課せられる場合もあるので注意が必要です。


申告期限と延長について過去の記事でとりあげています。


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